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 * 自分の居場所を改めて考えさせられた~VRアートが心が通わせる瞬間~



文:神足 裕司
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2022/11/30


VRアート展覧会で作品を描いた

この数ヵ月「わたしの居場所」についてずっと考えていた。

「わたしの居場所」というのは、社会福祉法人千楽×登嶋健太×せきぐちあいみがクラウドファンディングで資金を集めたVRアート展覧会。

千楽という福祉施設の利用者の方々の作品を展示するために開催された。実は、その展覧会でボクもVRで絵の作品を描いていた。



この施設の利用者は、発達障がいの方やその親御さん、そして周りを取り囲む方々だ。長年引きこもっていて自宅から出られなかったり、人とうまくコミニケーションが取れない人などなど、色々な悩みを抱えていらっしゃる方にアプローチする。

家庭訪問をはじめ、お料理教室や野菜の栽培をしたり、ゲームをしたり、染色をしたり、ハロウィーンパーティをしたり、絵を描いたりなどたくさんのプログラムを用意して、まずはここに来てもらうことからはじめるそうだ。

施設に来ても片隅でうずくまっているだけの人、ふらふらとして帰ってしまう人、スタッフの声かけに返事のない人がいるそうだけど、どう接するかは人によって違う。そもそも、外に出て施設に来ただけでも相当なことだ。

その施設で、数ヵ月前に新しいプロジェクトとして「わたしの居場所」と題したVRアートの展覧会に向けてのワークショップが始まった。

ボクはその展覧会でNFTマーケットプレイス(デジタルデータや作品を売買できる場所)に出品することを大きな目標を掲げ、彼らの横で別メニューとして描かせてもらっていた。

この施設の人たちに対して、その行く先では「こんなこともできるよ」というお手本的な行いなのだ。

ボクの絵もNFTに出すような代物ではないが、NFTにも出せば世界中の人から見てもらえる。そして、うまくいけばその絵が売れる。そんな事例として描いていた。

ボクが思うに、VRアートはHMD(ゴーグル)の中で一人になれることが一番の特徴だ。一緒にワークショップに大勢でいてもHMDの中は自分の世界だ。だから彼らには向いているプログラムでもあると思う。

将来的には、家から出てこられない人々のために、アバターになった彼らとHMDを使って遠隔で話ができたりといった発展が期待される。実際、VRアートだって遠隔でできるわけだから「もしかして」の利用価値は大いにありそうだ。




ボクの居場所は仕事の中にある

ボクは、喋れない。だから彼らと一緒に描いていてもほとんど喋ることはなかった。主催者の希望もあり、ボクは作業中の絵をパソコンに映しながら描いていた。

なので、ボクが描いているものを、横でワークショップをやっている彼らがチラチラっと見ていく。

彼らは、ほぼほぼコミニケーションが苦手だと思われる。ボクが喋れないことを知っているかはわからないが、車椅子に乗っているし、左手がうまく動かないのはそばにいればわかるだろう。

描くことに集中してしまうと麻痺側の左手に注意がいかなくなるので、左のコントローラーを落としてしまうのは日常だったから。

彼らはなぜボクがそこで絵を描いているか、というのをどこまで理解していたかは定かではないが、変なおっさんが苦労して絵を描いてるんだなあとは思っていただろう。

もちろん、彼らにとっては空間に絵をかくVRアートに触れるのは初めてのことだ。まずは、登嶋健太さんの指導のもと、どんな絵を描きたいか紙に書いてみる。「自分の心地よい場所とは?」そんなことを考えさせるワークショップだった。

これにはボクも参加した。ボクはここで自分の居場所は「やっぱり本に囲まれて、原稿を書いているところだな」そう思った。家族や仲間との色々な場面も浮かんだ。それももちろん自分の大切な居場所だ。

だけど、自分が今どうやって平静を保っているかといえば「仕事」なのである。馬鹿みたいな話だけれど、こんな体になってほとんど動けなくなっても自分を必要としてくれているという証でもある「仕事」が自分であることを承継してくれているように思ってしまう。

この体になって自分一人ではその「仕事」さえできない。なんらかの手伝いがいつも必要となる。

ベッドの上でいいアイディアが思いついても、メモを取りに行くこともできない。メモに残していないと頭に浮かんだいいアイディアはスッと消える。「あれ?」なんだっけ。一人では一事が万事。そんな感じだ。

もっと言うと車椅子を押してもらえなければ取材先にも行けない。

究極を突き詰めていれば家族や妻だったりするんだけれど、あえていえば、そんな妻が一番喜んでくれるのもボクが元気で仕事をしていることだったりするわけで、それを見せたいボクなのである。

ややこしい話ですみません。というわけで、そのワークショップで居心地の良いボクの居場所とは「本に囲まれている場所」と気持ちの整理ができた。それを頭の片隅に置いて絵を描き始めた。


展覧会は学ぶものも多かった

施設の皆さんも初めて空間に絵を描く体験はとても新鮮なことだったと思う。自分の書いた(その頃は平面で描くことしかできなかった)絵を後ろ側から見るという不思議な体験をした。

何回目か、よく隣で描いていたYさんがHMDをボクのそばの微妙な位置の床に置いて、壁際の椅子に座った。そして彼はボクを見つめている。彼が人と目を合わすことはあまりないことなので「何か用事がある?」すぐにそう思った。

ボクは喋れないので、彼のHMDに目を這わせまた彼を見ると、彼がうなずくではないか。

妻に「あれ、見ていい、見てくれって言ってるんじゃないの?」そう妻につらえると「そうかも!!」と、妻が彼に「これ裕司が見てもいいの?」そう聞くと大きく頷いてくれた。



まず、ボクがHMDを覗くと完璧な形にコピーされたミュウツーと、もう一つボクは名前がわからなかったがポケモンがそこに描かれていた。平面の絵ではあったけれど中に浮いたポケモンの上手さにはものすごく驚いた。何か手本を見ている気配もなかった。

ボクは喋れないので拍手した。彼は目を伏せていたがなんとなく仲間になった気がその時からしていた。「彼女にも見せていい?」と妻の方にHMDを渡すジェスチャーをすると「うん」と頷いてくれた。

妻が見ると感動の声が響いた「すごいねえ」「絵が上手なんだねえ」「ポケモン好きなのね」と独り言のように呟いていた。

HMDを取った妻が「何も見ないでポケモンを描けるのね」そう言いながらHMDを手渡しで彼に返すと、彼はボクに向かって「ポケモンは昨日の夜見て覚えてきた。今日描くために」そう言った。

ボクはもっともっと驚いた。囁くようだけれど彼の声を初めて聞いたこと、話してくれたこと、今日描くために昨晩ポケモンを見て覚えてきたこと、全部驚いた。「才能だ」覚えて描くなんてすごいなあと思った。

お返しに「ボクのも見てくれる?」そう言ってHMDを渡した。体育館ぐらいの大きさの円形の場所にぐるっと書棚があり、そこに本を書いて並べている途中の絵を見てもらった。

描きかけではあったが、立体の絵の中に入ったのは初めてのことだったと思う。

彼は歩き回って下から上まで5分以上も見てくれている。どうなっているんだろう?そんな感じでぐるぐるじっくり見てくれた。

その後のキックオフイベントでも別のボクの作品に入ってくれた彼は、やっぱりぐるぐると人の10倍ぐらいの時間をかけて、色々な角度から作品を見て研究してくれていたことがわかる。

「おお!」と感嘆の声も上げてくれた。こんなしがない作品でごめんなさい。それこそせきぐちあいみさんの作品のような中に入ってみて研究してほしかったが、彼はみるみる進化を遂げこの展覧会では立派な3DのVRアートを描いていた。

普段は彼も外出などはあまりしないらしく、東京の展覧会にも来れるのだろうかとみんな心配していたほどだという。でも、お母さんと一緒に展覧会にやってきたのだった。

彼の作品のコーナーは大人気で、いつも人が集まっていた。彼の描いた3DアートはARで現実の世界に呼び出して一緒に写真を撮ることができるのだ。その光景を自分の目で見れたことは、彼が本当に前進できたのではないかと思う。

彼はボクの作品も率先して体験してくれた。実は、「ボクの居場所はこれしかない」そう思って描き始めた大きな本に囲まれた空間の絵は、描いているうちにどうしても納得がいかなくなって一から描き直した絵になった。

3ヵ月以上かけて描いた絵を締め切りも3週間を切った頃から描き直した。同じ本に囲まれた自分の書斎を描くことに変わりはなかったけれど、描くタッチをガラッと変えた。どうしても自分らしい絵に描き直したいと思ってしまったのだ。

勇気は必要だったけれど、後悔もしたくない。そんなことも、ボクの描く過程をみてくれていた彼には話をしなくても分かってくれたに違いない、と思っている。

お母さんが「これを始めたら千楽さんに通うのが週に1回から2回になり、さらには自分で行くって言うようになりました。本当にありがとうございます」とお礼を言われてしまった。そうしたのはボクではないのだけど、一緒に描いている仲間だとは思ってくれていたんだろう。

妻が、前の晩にポケモンを覚えてきていたことに驚いた話をお母さんにすると、お母さんは「あ!そうなんですか?知らなかった○○くんそうなの?」「わあそうなんですね、知らなかったです。お話聞けて嬉しいです」なんだかほっこりしたとても充実した空気が流れた。

しばらく彼はボクの横のソファーに座っていてくれて、相変わらずボクと話すこともないのだけど、まあ話している気持ちにはお互いなっていると思う。ボクは十分そのつもりで横に座っていた。

ボクもこの展覧会のために絵を描いて、自分の絵を通して色々なことを学んだ。大切なことってなにか、そんな哲学的なことも思ったりした。

絵を描くってことは自分と向き合うことだなんてよく言われているけれど、向き合うどころか、考えすぎることもあった。ボクも彼らと一緒に少しは前進できたんじゃないかと思う。

そうそう。最後にはなりますが展覧会中に行われたNFTは無事終了し、ありがたいことに何人かの入札もあったようだ。初のNFTはドキドキだったが無事に終わってよかった。



12月11日(日)には平和記念公園レストハウスで博覧会In広島が行われる。彼らの作品をぜひご覧いただきたい。

【会場のご案内】
場所:広島市平和記念公園レストハウス
日程:12月11日(日)
時間:10:00~12:30(広島会場ご招待券をお持ちの方)、13:00~16:00(一般公開・他支援者)
住所:広島県広島市中区中島町1番1号

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コータリさんからの手紙とは:要介護5のコラムニスト・コータリこと神足裕司氏から介護職員や家族への思いを綴った手紙です。普段は満足に話すこともできないような要介護者が心の内に秘めている、介護者への感謝の気持ち、残念に思っていること、要望、希望…など、様々な思いを綴っていきます。

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